みんなも同じことを考えているらしく、死と直面した表情を浮かべながら、なす術もなく立ち尽くしている。


 そんな緊迫した状況下で、絹糸が門川君に向かってなにかを叫んでいるのが見えた。


 結界越しでも会話が通じている……ていうことは、ないみたい。たぶんアイコンタクトだ。


 絹糸が訴えていることをその様子から理解したのか、門川君がうなづいた。


 そして素早く両手で印を組み、言霊を繰り出す。


『混沌と秩序たらしめる、世の千の理よ、この界を開け。悠久の刻を守護する門を開くは、我の中にある万の鍵。有り得ぬ矮小も、圧倒も、道理さえも、この純然たる存在と真理の前には、ただひたすらに無力なり』


 強烈な術光が周囲を一気に純白に染める。


 経験上、門川君の言霊は、詠唱が長ければ長いほど強烈な効果をもつヤツなんだ。


 今回のは、かなり長い方。ということは、たぶん……。


―― ゴオォォンゥ―――ッ!


 やっぱりきた――! かなり強烈なヤツー!


 固唾を飲んで、覚悟を決めて待ち構えていたけれど、どうやら予想以上のがきたらしい。


 聞いたことのない異音が鳴り響いて、奇妙なレンズ越しに透かしたように、目の前の空間がグニャリと歪曲した。


 上と下と、前と後ろと、右と左と、奥と手前と、とにかくすべての方向感覚が、一瞬で狂う。


 自分の感覚と、存在自体が信じられなくなって、大げさに言えば世界が崩壊した。


 なにもわからない。なにか大きな存在が目の前にあって、それを体感しているのに、あたしはただ、無力。


 無力なんだ……。


 そしてあたしは、目を閉じる。


 抗うすべのない現象に、意識を保てる道理もなく、ちっぽけなあたしはあっけなく意識を手放した。


 そして不確かな自分自身が、どこか決められた場所へ彷徨う不思議な予感を、ほんの薄っすらと感じていた……。