「必要電力ならさ、目の前にあるじゃん。小型だけど、自前で発電できる超強烈なのが」


「やかましいわ小娘。だれが超小型発電機じゃ」


 ちょうど日陰になっている畳の上に、絹糸がデローンと寝そべって涼をとっている。


 お腹丸出しの実に猫っぽい体勢の絹糸に、あたしはブチブチ文句をたれた。


「だってまだ六月だってのに、このスーパー高気圧ったら腹立つ!」


「『心頭を滅却すれば、火もまた涼し』じゃ」


「はあ? いきなりお経なんか唱えないでよ。頭大丈夫?」


「……お前は現世の学校で、なにを勉強しておるのじゃ?」


「学校ではお経なんか教えないもーん」


「これが天内一族の、なれの果てとはのぅ。情けなくて涙も出んわい」


「それ、暑くて水分足りてないだけじゃない? 気をつけないと熱中症になるよ?」


 絹糸は長いシッポをユラユラ揺らめかせながら、いかにも呆れた様子で溜め息をついた。


「ねー、そのメトロノームみたいなシッポの動き、リズミカルにムカついて体温上がるから、止めてほしいんですけどぉー」


「お前よりも我の方が、よっぽど暑いわい。我は毛皮を着ているのじゃぞ?」


「嫌ならさっさと脱げば?」


「脱げるか。別の生き物になってしまうわい」


「……たしかに。今ちょっと脱いだ姿を想像しちゃったら、怖かった……」


「……我もじゃ」


 しま子が、かいがいしく打ち水をしている中庭は、まだ午前中だというのにもうこんなに陽射しが強い。


 松の木にも敷石にも、燦々と明るい光が降りそそいで、視界全体の色素が濃く強烈に見える。


 しま子が振るうヒシャクから散って落ちる水が、夏の熱い光に照らされて、クリスタルのビーズみたいにキラキラして綺麗だった。