神様修行はじめます! 其の五

―― ザワザワザワ……


 不意に、低い音が聞こえた。


 小さな生き物が大量に這い回るような、不気味で不快な音が鼓膜をくすぐる。


 歯が浮くような嫌な音が四方八方から聞こえてきて、不安感もザワザワ高まった。


 見えもしない周囲をキョロキョロ見回しながら、あたしは怯えた声を出す。


「これ、なんの音? この異形、なにしてるの?」


「わからぬ。だが、どうも嫌な予感が……」


「うおあぁ!?」


「なにマロさん!? 変な声ださないで!」


 この状況で結界担当者にそんな声だされたら、すっごい心配なんですけど!


 お願いだから、『結界が破壊されている』っぽい発言なんてゴメンだからね!?


「け、結界が……食われかけているでおじゃる!」

「なにそれ――――!」


 食うの!? 食っちゃうの!? 結界食っちゃうの!?


 破壊される発言よりよっぽど衝撃度高いじゃん!


 この番犬異形ってば、結界食べるなんて好き嫌い無さすぎでしょ!


 坂本さんちのビーグルは、ペデ◯グリーチャムの缶タイプしか絶対食べない偏食なのに!


「おそらく水晶の力を取り込むように、結界の力も取り込んでおるのじゃ」


「この結界のエネルギー純度の高さに、異形が惹かれたのでしょう。さすがは端境当主様の力量でございます」


「あ、ありがとうでおじゃる。今後も精いっぱい、精進するでおじゃる」


「ノンキにおじゃってる場合じゃないってば! なんとかしてマロさん!」


 結界が食われ尽くされたら、あたしたち、生身の体で外へ放り出されちゃう。


 それって、宇宙空間に水着姿で飛び出すレベルの危機的状況じゃないですか!? 即死確定!?


「補修とかできない!? パテ塗りみたいな感じで!」


「補修した分、食われるだけでおじゃる。相手にどんどんエサを与えているようなものでおじゃるよ」


「そんな出血大サービス、いらないよー!」