神様修行はじめます! 其の五

―― ウオォォォ――――ン!


 黒い霧の雄叫びが響く。


 奪い取った水晶を胸に抱えて、立ち去ろうと背を向けていた水園さんの体がビクッと震えた。


 弓なりの体勢になって硬直して、まるで感電した魚みたいにスーッと水底に横たわり、そのままピクリとも動かなくなってしまった。


「ああ、そんな……水園が死……!」


 クレーターさんは、いまにも失神しそうなほど悲愴な顔をして、結界の壁に爪を立てている。


「落ち着け、小浮気。娘はまだ死んではおらぬ。おそらく気を失っておるだけじゃ」


 やっぱりあんな薄い結界じゃ、衝撃波を防ぎきれなかったんだ。


 倒れたまま微動だにしない水園さんの様子を窺うように、黒い霧がユルユルと近づいて行く。


 たぶん、死んだかどうか確認しようとしているんだ。


 まだ生きているとわかったら、今度こそトドメを刺されてしまうかもしれない!


「絹糸、水園さんを助けにいかないと!」

「うむ。行くぞ!」


 絹糸が急いで水園さんの元へと移動し始めた。


 途端に、あたしたちを警戒していたもう一方の黒霧が、こっちに向かって突撃してくる。


 うわ、また体当たりされるぅ……! と思って身構えた瞬間、とつぜん黒霧がアメーバ状に広がった。


 そして結界ごと、あたしたちをガバッと覆い尽くしてしまう。


「なになに!? こいつ、なにするつもりなの!?」


「暗くてなにも見えませんわ!」


「ええい、水園が見えんではないか! この異形め! 退け!」


 すっかり薄暗くなってしまった空間で、それぞれが動揺している。


 視界が閉ざされてしまった状況じゃ、絹糸も身動きできない。


 ああ、もう! こんな所で足止め食らってる場合じゃないってのに!


 こら番犬、とっとと離れろ! ハウス!