神様修行はじめます! 其の五

 水晶が放つ薄明りの中に、真っ白な衣装を身にまとった人の姿が、朧に浮かびあがっていた。


 揺らめく光に照らされたその顔は、この世のものとは思えないほど美しい。


 なんだか、妖しい幻想を見ているみたいだ。


 こんな場所で、生身の美しい人間の姿を見ること自体が不可思議で、夢でも見ているようなボーッとした気分に……。


「水園―――――!」


 クレーターさんの叫び声に、あたしの頭は一気に覚醒した。


 ……そうだ、あれ、水園さんじゃん!


 ということは門川君も、そこら辺にいるんじゃないか!? ぼーっと見惚れてる場合じゃない!


 我に返ったあたしは、クレーターさんの隣で肩を並べて一緒に叫びだした。


「門川君! 門川君、どこにいるの!?」


「水園! 私だよ水園!」


「門川君ー! あたしの声が聞こえたら返事して門川君ー!」


「水園ー! こっちを向きなさい水園! 返事をしなさい水園ー!」


「って、さっきからクレーターさんうるさい! 耳元でギャーギャー騒がないでよ鼓膜破れる!」


「お前こそ少し黙れ! お前のガサツな怒鳴り声のせいで、私の声が水園に届かぬだろうが!」


「ふたりとも、やかましいわ! 手狭な結界の中で張り合うでない!」


 ここでどんなにわめき散らしても、どうやら水園さんには、まったく聞こえていないらしい。


 水園さんは水中を漂う人魚のように、ふわふわユラユラと移動している。


 その全身が極薄の結界に包まれているのが、ぼんやりと見えた。


 あれはきっと、宝物庫のアイテムのひとつなんだろう。じゃあやっぱりチョロまかしてたんだ。


「水園、気をつけなさい! 近くに異形がいるのだ!」


 結界の壁をバンバン叩きながら、クレーターさんが必死に叫んでいる。


 でも水園さんには当然、聞こえない。彼女は相変わらず人魚みたいに、ふわふわと漂い続けている。


 本当に人魚みたいだ。体全体をしなやかに動かして、自分の望む通りに泳いでいるのが伝わってくる。