クレーターさんは小浮気の長として、一族を優先しなきゃならなかった。


 我が子かわいさに他の者の命を犠牲にするっていう道も選べたけど、その選択はしなかった。


 その結果、水晶さんの命を差し出すことになった。


 ……指導者として、親として、人として、なにが正しくてどの選択が間違いなのかなんて、あたしには分かんない。


 永世おばあ様も、当主である立場と、ただの祖母である立場との板挟みでずっと苦しんでいた。


 凍雨くんも氷血一族を守るために、一時的にとはいえ、あたしたちを裏切るしかなかった。


 お岩さんだって、マロさんだって、いつも当主としての自分の立場に思い悩んでいる。


 そして……


 おそらく地味男も、自分なりの真実を胸の中に抱えて、門川君に牙を剥こうとしているんだろう。


あたしは小さく舌打ちしながら、涙で滲む両目を腕でグィッと拭いた。


 水晶さんという愛する人を失った地味男は、多分そのとき、なにかを決意したんだ。


 それが何で、なにを目指していて、なにをするつもりなのかは分かんないけど。


 ……なんかさ、薄々そんな予感してたんだよ。


 だってこれまでの敵もみんな、守る物のために、自分の信じる物のために戦っていたから。


 もしかしたら地味男も? ……ってさ。


 なんでなのかな?


 なんでみんな、こんなに苦しまなきゃなんないのかな?


 みんな心に深手を負って、泥沼みたいな場所で散々あがいて、もがいて、命がけで戦って。


 そして、死んでいく。


 ああ、またかよって、思う。


 また、あんなつらい思いをしながら、敵を倒さなきゃなんないのかな?


 覚悟はしてるつもりだけど、こういうの、いつまで続けなきゃならないんだよ。