空と、光と、大地。

 それらが当たり前に存在している奇跡の世界の中で、あの人と私は出会った。


 成重様は、私を見つけてくださった。


 他の誰でもない、小浮気水晶という存在を、見つけてくださった。


 水底の中で生まれてからずっと息を潜め、明日をも知れぬ定めに、死にもの狂いで抗い続けていた日々。


 見送ってきた多数の仲間の命。流した涙。積もる怨嗟。苦しみに澱む水。


 それでも、あぁ……成重様。


 あなたは私に、明日の良き日和に、ずっと欲しかった言葉を与えて下さるのだろうか……!?


 居ても立っても居られずに、右に左にジタバタして、立ち止まっては我慢できずに、またクルクルと歩き回る。


 高揚と期待に溢れる感情をとても制御できなくて、いまにも心臓が破裂してしまいそうだ。


 熱く火照る両頬に手をギュッと押し当てて、勝手に緩む表情をビシビシ叩いて引き締める。


 あ、そうだ! こうしてはいられない!


 さっそく父様に、このことをご報告……!


『水晶様』

『きゃっ!?』


 いきなり背後から不意打ちで声をかけられ、水晶は飛び上って驚いた。


 弾かれたように振り向くと、いつの間にか父様の側近が、ひどく神妙な様子で縁側に控えている。


 たしかこの人は、蛟一族との連絡を担っている用人だった。


 いやだ、いつからそこにいたの?

 ずいぶん複雑そうな顔をしているけれど、もしかしたら一部始終を見られてしまったのかしら?


『水晶様』


『あ、違うんです。私が挙動不審だったのは、ちょっと理由があって……』


『水晶様』


『大丈夫です。ちゃんと持ち直しましたから。もう平常心に戻りましたから」


『水晶様』


『ですからもう、大丈……』


 側近の顔が青ざめていることに、水晶はようやく気がついた。


 逃げ場のない断崖に追い詰められた獲物のような表情で、側近は水晶を凝視している。


 両目は赤く充血し、震える唇で、涙声をただ繰り返すばかり。


『水晶……さ、ま……』


 昂ぶりが嘘のように、一瞬で引いていく。


 染まった頬を押さえていた水晶の両手が、パタリと、力無く崩れ落ちた……。