『私が通っていた学問所に、権田原の里から来た遥峰という男がいたのです』
縁側で水晶と成重は、今日も肩を並べて腰掛けていた。
良いお日和の空の下、すっくと伸びた薄緑色の竹の葉が風に揺られて、サワサワとさざめいている。
足元ではスズメが数羽、草の合間を啄ばみながら、時おり鈴のような鳴き声を上げていた。
そんな穏やかな光景を眺めながら、お互い淡々と交わす会話は、ふたりにとってかけがえのない時間だった。
『彼は一族の長の子息ではないのですが、特例を受けて学問所に通っていました』
『それはすごいですね。優秀な方なのですか?』
『はい、それはもう。見目麗しく頭脳明晰。一を聞いて十を悟る聡明さと、人を惹きつける天与の才の持ち主でした』
『まあ、まるで水園姉様のよう!』
『ああいった特別な種類の人間は、現実に存在するのですね。彼は、私には持てない全部を持っている』
自分には一生縁のないような、重要な役職を任されるのだろう。
そして大勢の人間に期待され、里を導き、人々に認められていくのだろう。
平凡でしかない自分と、輝かしいあの人。
成し得ない自分と、成し得るあの人。
対極の位置にいるふたりの間の距離は果てなく遠くて、同じ世界にいながら、まるで次元が違う。
自分は、天に向かってどこまでも伸びる竹を見上げる、土埃まみれの雑草でしかない。
知っている。比べることはないのだと分かってはいる。
でも傍から見ればそれは結局、自分で自分を慰めているだけなのだ。
どうしても卑屈という言葉が脳裏に浮かび、消えてくれない。
『私も、持っていません。水園姉様のような美貌も、知性も』
妬みではなく、純粋に羨ましい。
ずっと、素晴らしいなと思ってきた。すごいなと思ってきた。いいなぁと思ってきた。
正直、姉様になれたらいいなと思ってきた。
縁側で水晶と成重は、今日も肩を並べて腰掛けていた。
良いお日和の空の下、すっくと伸びた薄緑色の竹の葉が風に揺られて、サワサワとさざめいている。
足元ではスズメが数羽、草の合間を啄ばみながら、時おり鈴のような鳴き声を上げていた。
そんな穏やかな光景を眺めながら、お互い淡々と交わす会話は、ふたりにとってかけがえのない時間だった。
『彼は一族の長の子息ではないのですが、特例を受けて学問所に通っていました』
『それはすごいですね。優秀な方なのですか?』
『はい、それはもう。見目麗しく頭脳明晰。一を聞いて十を悟る聡明さと、人を惹きつける天与の才の持ち主でした』
『まあ、まるで水園姉様のよう!』
『ああいった特別な種類の人間は、現実に存在するのですね。彼は、私には持てない全部を持っている』
自分には一生縁のないような、重要な役職を任されるのだろう。
そして大勢の人間に期待され、里を導き、人々に認められていくのだろう。
平凡でしかない自分と、輝かしいあの人。
成し得ない自分と、成し得るあの人。
対極の位置にいるふたりの間の距離は果てなく遠くて、同じ世界にいながら、まるで次元が違う。
自分は、天に向かってどこまでも伸びる竹を見上げる、土埃まみれの雑草でしかない。
知っている。比べることはないのだと分かってはいる。
でも傍から見ればそれは結局、自分で自分を慰めているだけなのだ。
どうしても卑屈という言葉が脳裏に浮かび、消えてくれない。
『私も、持っていません。水園姉様のような美貌も、知性も』
妬みではなく、純粋に羨ましい。
ずっと、素晴らしいなと思ってきた。すごいなと思ってきた。いいなぁと思ってきた。
正直、姉様になれたらいいなと思ってきた。


