神様修行はじめます! 其の五

 それから毎日、成重は水晶に会いに行った。


 これまでは用事にかこつけて小浮気邸に顔を出していたのだが、もうそんな体裁は、成重にとって必要なかった。


 誰にはばかることなく堂々と、水晶に会いたい。


 もう成重にとって水晶への想いは、臆するものではなかったから。


 だがそうなれば当然、周囲の知るところとなって、噂にもなり始める。


 口の悪い者たちは、こぞってふたりのことを陰でヒソヒソと物笑いのタネにした。


『上位一族の、味噌っかす同士』


『目立たない日陰者同士、お似合いの組み合わせ』


 自分たちを卑下するそんな噂話は、水晶の耳にも入っていた。


 そのたびに、皆は思い違いをしていると思う。


 成重は別に、そういった種類の好意を、自分に対して持っているわけではないのだ。


 だって、こんなに頻繁に通ってきながら、一度もそんなことを口にしたことはないのだもの。


 だからふたりの間にあるものは、周囲の思惑とは違って、純粋な友情なのだ。


 そうなのだ。そうに決まっている。だから……。


 期待しては、いけない。


 そう自分に言い聞かせながら、本当はまったく逆なことを望んでいる自分の本音に、水晶は気づいていた。


 毎日、成重に会えるのが楽しみでしかたがない。


 成重の顔から目が離せない。声が耳から離れない。


 そばにいる間中、心は手毬のようにポンポンと跳ねあがり、そのまま羽が生えて飛んで行ってしまうかと思うほど。


 別れの挨拶をして見送った瞬間から、もう会いたくて会いたくて、たまらない。


 会いたい。切ない。苦しい。……もどかしい。


 胸に溜まった想いを吐息に変えて、吐いても吐いても、切なさも熱さも募るばかり。


 やるせない思いに焦がれ、人知れず水晶は涙を零した。


 これは……恋情。


 自分は、成重に恋をしている。


 誰も見つけてくれなかった自分という存在を、やっと見つけてくれた人。


 そしてまた今日も、あの人が会いに来てくれる……。