神様修行はじめます! 其の五

『これは、お恥ずかしいところを見られてしまいました』


『……恥ずかしい? なにがでしょうか?』


 ドングリのような小さな丸い目をクルリとさせて、水晶が不思議そうに聞いてきた。


 成重は自身の卑屈さを隠すように、ことさら明るい笑顔で答える。


『私は長の息子でありながら、ご覧の通り下働きばかりしている身なのですよ。いや、まったくもってお恥ずかしい』


 ハハハ……とわざとらしく笑う自分の声が、耳の奥で卑屈に響く。


 ますます惨めな気分に拍車がかかって、成重は余計に落ち込んだ。


 水晶になにか言われる前に予防線を張ったつもりが、逆に墓穴を掘ってしまった気がする。


 ああ、こんな自分の、なんと情けない男であることよ。


『あの、恥ずかしいって、なにがでしょうか?』


水晶はますます両目を見開いて、さらに不思議そうな面持ちで聞いてきた。


『働くって、地上では恥ずかしいことなのですか?』


『……は?』


『私、人様のお役に立つ、良いことなのだとばかり思っていました』


『…………』


『地上では、そういった考えをするものなのですか? 初めて知りました! 驚きです!』


 興奮した様子で、唇を小鳥のようにパクパク動かしながら、物珍しそうに訴えてくる水晶。


 彼女は卑屈な感情から漏らした成重の言葉を、卑下もせず、笑いもしない。


 ただ純粋に、これが地上と水底の世界観の違いなのかと思い込んで、目を丸くしている。


 その勘違いがとても可愛らしくて、成重は自分が落ちこんでいたことも忘れて、思わず声をあげて笑ってしまった。


 わけが分からずキョトンとしている水晶の前で、ひとしきり笑ったあとで……


 勘違いをしていたのは自分の方だったと、つくづく思い知った。