神様修行はじめます! 其の五

 それでも今日、成重は念願の約束を果たすことができた。


『よいお日和ですね』


 あぁ……そのひと言を今日までどれほど、あの少女に告げる日を夢みてきたことか!


 そして少女は、過ぎた年月の分、大人となって成重の前に現れた。


 成重の心を魅了した笑顔と、声と、言葉の輝きは、あの日とまったく変わらぬままに……。



 それ以来、成重は事あるごとに、小浮気邸に通うようになった。


 父上や兄上が小浮気に赴くとあれば、率先してお供に名乗り出て、荷物持ちでもなんでもやった。


 ただひたすら、水晶に会いたい一心で。


 同じ兄弟でありながら、兄の荷物持ちをする弟という自分の立場に、わだかまりがないとは言えない。


 でも水晶と言葉を交わしているときだけは、そんな自分の惨めさを忘れることができた。


『こんにちは、成重様。今日も良いお日和ですね』


 ふたりの間で、まるで約束事のようになっている挨拶を口にしながら、水晶が笑顔で歩み寄って来る。


 その日、成重は上からの言いつけで、小浮気一族への荷物運びを命じられていた。


『水晶殿、こんにちは。良いお日和ですね』


 額に浮いた汗を拭いながら挨拶を返した成重は、ふと、我が身が恥ずかしくなった。


 大量の荷物を、表通りから屋敷の中へ何度も往復しながら、運び込む作業を続けている自分。


 上位一族の長の息子とは名ばかりで、まるで家来のように扱われている自分。


 こんなみっともない姿を見て、水晶は幻滅しているのではないか。ガッカリしているのではないか。


 水晶には情けない姿を見られたくない。


 見栄を張りたい。良いところばかりを見ていてほしい。失望されたくない。


 もしも……もしも水晶に相手にされなくなってしまったら……。


 生まれて初めて感じるそんな不安が、成重の心をどうしようもなく弱気にさせた。