神様修行はじめます! 其の五

『それでは、失礼いたします。またお会いできるといいですね!』


 水晶は臆する様子も見せずに欄干からヒラリと身を躍らせて、勢いよく水中に飛び込んだ。


 大きな水音と共に透明な水飛沫が宙に舞い散り、それが光を反射して、宝石の粒のように輝いている。


 そして、しなやかな手足を尾びれのように動かして、水晶はあっという間に水の底へと去って行ってしまった。


 わずか一瞬に垣間見た、水の煌めきと、少女の際立った透明感。


 その光景は成重の胸に、言いようのないほどの深い感動を刻んだ。


 その日以来、残念ながら太鼓橋に赴く機会はなかったけれど、水晶との短い出会いは、彼の中に大きな変化をもたらすことになった。


 毎日、ことあるごとに水晶の横顔が脳裏に浮かぶ。


 あの明るい大きな声が。


 あの意味深い言葉が。


 そして交わした約束が、記憶の中で何度も何度も繰り返される。


 成重は蛟の長の子ではあっても、十四番目という生まれのため、なんの地位も権限も与えられてはいない。


 ほとんど家来同然に働かされる毎日だった。


 そんな、未来に何の展望も持てない毎日に、まさに宝石の水晶のような澄んだ光が射すようになった。


 なにかつらいことがあれば、空を見上げて少女の面影を思い起こし、この胸を慰める。


 なにか楽しいことや嬉しいことがあれば、水の底の水晶にも、どうかこの幸せを分け与えられますようにと願う。


 いつかまた会いたいと切望しながら、それはずっと叶うことはなかった。


 それが今日、やっとのことで再会を果たすことができたのだ。


 残念ながらというか、予想通りというか、水晶の方はあの日のことをすっかり忘れていたけれど。