神様修行はじめます! 其の五

 水晶は、そんな成重のことを真っ直ぐ見つめたまま、少しの間沈黙していた。


 そしてゆっくりと顔を上に向けて空を見上げ、またあの印象的な表情を見せる。


『はい、本当に素晴らしいですね。お日様も、お花も、地面も、空気も、ビックリするほど素晴らしいですね!』


『…………』


『こんなにも普通で、平凡なことを見つけられて、私はとても嬉しいです。嬉しいって思える自分が、嬉しいんです』


 微笑む唇から、白い歯が覗く。


 なにかを強く信じているような目が、青い空と、広がる大地と、この世のすべてを見渡して、しっかりとその心に刻み込まれている。


『私はきっと、まだ生きられる。……そう信じられるから』


 願い。決意。誓い。そのどれでもあり、そのどれとも言い切れぬ想い。


 まだ少女としての幼さの残る頬の線と、それに似つかわぬ意思の強さと、大人びた言葉に、成重は圧倒されていた。


 水晶は振り返り、笑顔で成重に話しかけてくる。


『また、ここでお会いできますか?』


『……あ……それは……どうでしょうか』


『もしまたお会いできたらその時は、よいお日和ですねって、今みたいにお声をかけてくれませんか?』


『はい?』


『世界はとても素敵ですねって、一緒に笑って話せる人がほしいんです』


『…………』


『お願いできますか?』


『もちろん』


 大きくうなづく成重を見て、花がほころぶように水晶は笑った。


 そんな風に目の前で笑ってくれたことが、成重は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。