一方、成重は成重で、頭の中も心の中も、いっぱいいっぱいの状態だった。
嬉しさのあまり、わあぁっと叫んで少年のように走り出したい気持ちを、生来の冷静さで懸命に抑え込んでいる。
……やっと、やっとあの人に話しかけることができた。
あの日に交わした約束通りに。
勝手に緩む頬の筋肉を必死に宥めながら、成重は、水晶と初めて出会った日のことを思い出していた。
あれはもう、二年も前のことだろうか?
小浮気一族から、規定分の宝物を受け取るために太鼓橋へ赴いた自分は、欄干に腰掛けているひとりの少女と出会ったのだ。
少女以外に、誰も人影は見えない。
ならばおそらく、彼女が宝物を手渡しに来た、小浮気一族の長の娘なのだろう。
黒髪も、顔も、衣装もしとどに濡れ、全身から雫をダラダラ垂らしている姿は、明らかに異質だった。
でも、空を見上げる少女の横顔があまりに幸せそうに見えて、目が釘付けになってしまう。
降りそそぐ午後の陽射しにも負けないほど、両の瞳が燦々と輝いている。
ほんのり赤味を帯びた頬と唇は、いまにも歌い出しそうに微笑んでいる。
……彼女の幸せな時間を邪魔してはいけない。
成重はそう思った。
そうして少し離れた場所から見守っていたけれど、いつまでも少女は空を見上げてニコニコしていて、こちらに気づかない。
さすがにこのまま立ちんぼうを続けているわけにもいかなくて、成重は、ためらいながら少女に声をかけた。
『あの、良いお日和ですね』
弾かれたように少女は振り向いた。
やがて、キョトンと見開かれた少女の両目がゆっくりと細められて、そして……。
『はい、とても良いお日和ですね! 素晴らしいと思います!』
意外なほど明るい大きな声で、少女は挨拶を返してくれた。
本当に、その明るさは成重にとって意外すぎる反応だった。
小浮気一族の悲惨な現状は、蛟一族では知らぬ者はいなかったからだ。
嬉しさのあまり、わあぁっと叫んで少年のように走り出したい気持ちを、生来の冷静さで懸命に抑え込んでいる。
……やっと、やっとあの人に話しかけることができた。
あの日に交わした約束通りに。
勝手に緩む頬の筋肉を必死に宥めながら、成重は、水晶と初めて出会った日のことを思い出していた。
あれはもう、二年も前のことだろうか?
小浮気一族から、規定分の宝物を受け取るために太鼓橋へ赴いた自分は、欄干に腰掛けているひとりの少女と出会ったのだ。
少女以外に、誰も人影は見えない。
ならばおそらく、彼女が宝物を手渡しに来た、小浮気一族の長の娘なのだろう。
黒髪も、顔も、衣装もしとどに濡れ、全身から雫をダラダラ垂らしている姿は、明らかに異質だった。
でも、空を見上げる少女の横顔があまりに幸せそうに見えて、目が釘付けになってしまう。
降りそそぐ午後の陽射しにも負けないほど、両の瞳が燦々と輝いている。
ほんのり赤味を帯びた頬と唇は、いまにも歌い出しそうに微笑んでいる。
……彼女の幸せな時間を邪魔してはいけない。
成重はそう思った。
そうして少し離れた場所から見守っていたけれど、いつまでも少女は空を見上げてニコニコしていて、こちらに気づかない。
さすがにこのまま立ちんぼうを続けているわけにもいかなくて、成重は、ためらいながら少女に声をかけた。
『あの、良いお日和ですね』
弾かれたように少女は振り向いた。
やがて、キョトンと見開かれた少女の両目がゆっくりと細められて、そして……。
『はい、とても良いお日和ですね! 素晴らしいと思います!』
意外なほど明るい大きな声で、少女は挨拶を返してくれた。
本当に、その明るさは成重にとって意外すぎる反応だった。
小浮気一族の悲惨な現状は、蛟一族では知らぬ者はいなかったからだ。


