『水晶殿』
『はい』
また誰かに背後から名前を呼ばれて、彼女は振り返った。
そして、舌が覚えた言葉を無意識に繰り返す。
『姉上様でしたら、父上様のお部屋に……』
『あ、いえ、そうではなくて』
困ったようにフルフルと首を横に振る男を、水晶は見上げた。
とりたてて特徴のない顔立ち。ちょうど姉と同い年くらいだろうか?
中肉中背で背も高からず低からず、平凡な体格の、平凡な男。
もしかしたら、これまでもどこかで会ったことがあるかもしれないけれど、特に記憶に残ることもない。
まるで自分のような人だな……と、水晶は思った。
『あの、水晶殿』
『はい。なにか御用でしょうか?』
『その……』
『はい?』
『…………』
『?』
『……あの……良い、お日和、ですね』
水晶はパチパチと瞬きをした。
なんと返答すればよいものか分からず、この、わずかに顔を赤らめている男から視線を逸らし、ふと空を見上げた。
たしかにこの男の言う通り、軒下越しに見える空の色は、透き通るような青空だ。
天から明るい陽射しが降りそそぎ、庭の竹の緑や椿の赤を、美しく鮮明に浮き立たせている。
……あぁ……思えば、一族が水底で暮らしていた頃は、こんな景色は夢のまた夢。
明るい陽射しはおろか、色とりどりの花なんて見ることも叶わなかった。
陸に上がることなく生涯を終えてしまった仲間を、自分は数えきれないほど知っている。
こうして光の眩しさ、温かさ、色彩の美しさを感じることができる素晴らしさよ!
そうだ! 今日という日の素晴らしさに、自分も心から感謝を示さなければ!
『はい、とても良いお日和ですね! 素晴らしいと思います!』
『…………』
明るい大きな声で答えた水晶を、目の前の男性は黙って見つめている。
なんだかその表情は少し驚いているように見えて、彼女は小首を傾げた。
なんだろう? 自分はなにか、おかしな受け答えをしてしまったのだろうか?
良い日和ですねと言われて、まったくもってその通り!と、持てる全力でもって同意したのだけれど。
『はい』
また誰かに背後から名前を呼ばれて、彼女は振り返った。
そして、舌が覚えた言葉を無意識に繰り返す。
『姉上様でしたら、父上様のお部屋に……』
『あ、いえ、そうではなくて』
困ったようにフルフルと首を横に振る男を、水晶は見上げた。
とりたてて特徴のない顔立ち。ちょうど姉と同い年くらいだろうか?
中肉中背で背も高からず低からず、平凡な体格の、平凡な男。
もしかしたら、これまでもどこかで会ったことがあるかもしれないけれど、特に記憶に残ることもない。
まるで自分のような人だな……と、水晶は思った。
『あの、水晶殿』
『はい。なにか御用でしょうか?』
『その……』
『はい?』
『…………』
『?』
『……あの……良い、お日和、ですね』
水晶はパチパチと瞬きをした。
なんと返答すればよいものか分からず、この、わずかに顔を赤らめている男から視線を逸らし、ふと空を見上げた。
たしかにこの男の言う通り、軒下越しに見える空の色は、透き通るような青空だ。
天から明るい陽射しが降りそそぎ、庭の竹の緑や椿の赤を、美しく鮮明に浮き立たせている。
……あぁ……思えば、一族が水底で暮らしていた頃は、こんな景色は夢のまた夢。
明るい陽射しはおろか、色とりどりの花なんて見ることも叶わなかった。
陸に上がることなく生涯を終えてしまった仲間を、自分は数えきれないほど知っている。
こうして光の眩しさ、温かさ、色彩の美しさを感じることができる素晴らしさよ!
そうだ! 今日という日の素晴らしさに、自分も心から感謝を示さなければ!
『はい、とても良いお日和ですね! 素晴らしいと思います!』
『…………』
明るい大きな声で答えた水晶を、目の前の男性は黙って見つめている。
なんだかその表情は少し驚いているように見えて、彼女は小首を傾げた。
なんだろう? 自分はなにか、おかしな受け答えをしてしまったのだろうか?
良い日和ですねと言われて、まったくもってその通り!と、持てる全力でもって同意したのだけれど。


