―― ボクの父上が数日ぶりで獲物を仕留めて、久しぶりにお腹いっぱい食べられたとき、ボクは嬉しくて笑いました。
一族に生まれた赤ちゃんが、初めて言葉をしゃべったときも、ボクは声をあげて笑いました。
…………。
せっかく手に入れた獲物を、残らず人に分け与えて、そのあと父上は飢えて死んでしまったけれど。
言葉をしゃべった数日後に、あの小さな可愛い赤ちゃんは、あっけなく凍え死んでしまったけれど。
それでもボクらは、笑うしかないんです。
骨と皮のように痩せた骸を、冷たい氷の下に泣きながら埋めた後で。
二度と言葉をしゃべることのない骸を、腕の中で揺さぶり続けて、何度も名前を叫び続けた後で。
ボクらは、そうやって無意識に手を伸ばすんです。
まるで霜の根元を覗き込むようにして、凍える指先で、『平凡』を見つけ出すんです。
凍傷になりかけた両手であっても、どんなにちっぽけなことでも、どんな些細なことでも、その手で平凡な日常を取り戻したいから……――
「だからね、必死になって死にもの狂いで、『平凡な日常』を演じる自分を信じて、過ごすしかないんです」
「…………」
「そうですよね? そうなんでしょう? 小浮気様」
凍雨くんが、俯いていた顔をスッと上げた。
彼のまつ毛が濡れているように見えるのは、気のせいじゃないんだろう。
クレーターさんは口をポカリと小さく開いて、目の前の少年を見つめていた。
やがて必死に押さえつけていたものがドッと溢れ出すように、クレーターさんの目から大きな涙がボロボロと零れ落ちた。


