あたしは急いで駆け寄って、クレーターさんを落ち着かせようと声をかけた。


「クレーターさん、大丈夫?」


 でもクレーターさんは、どう見ても大丈夫じゃなさそう。


 すんごい形相で、まるでしがみ付くみたいな勢いであたしの両肩を掴んで、ガクガク揺さぶってきた。


「な、なんだ!? あれはなんなのだ!? あんな、あ、あんな姿……!?」


「ちょっと、痛いよクレーターさん。怖がらなくて大丈夫だよ、あれ絹糸だから」


「あれが絹糸だから、驚いているのだ!」


「うんうん、そうだよね。さ、早くあれの背中に乗ってね」


「乗る!? あれに乗る!? お前、自分がなにを言っているのか、わかっているのか!?」


「だから、そんなビビんなくて大丈夫だってば。あれ噛まないから。たまに吠えるけど。しょっちゅう雷撃落とすけど」


「な、なぜお前はそんなに平然としていられるのだ!?」


「なんでって、だって何度も絹糸に乗って空飛んだもん。あたし」


「空を……飛……」


「空なら何度も飛んだよ? 何度も落っこちたし。それに伝書亀にも乗って飛行したし、わりと経験豊富なの」


「…………」


 信じられない物体を発見したような、クレーターさんの強烈な視線が痛い。


 なんか、こっちの世界の人にあたしの体験談をここまでビビられるのって、逆に新鮮。


 本っ当にこの人って、戦闘経験ないんだ。一般の小浮気の人なら、まだこれよりは経験があるのかもしれないけど。


 一族の長だもんなぁ。屋敷の奥に引っ込んで、ふんぞり返ってるタイプの長だったんだろう。


 さっき付き人さんが、あれだけ必死こいて思いとどまらせようとしたの、分かる気がする。


 うあー、こりゃーめんどくさいお荷物抱えちゃった予感がするー……。