「それで、どうするというのだ? どうやって下へ降りる? まさか、いっせーのっせで全員で飛び込むのか?」


 欄干から恐々と下を見おろしているクレーターさんの声が、微妙に震えている。


 呼吸が乱れて、大きく肩が上下して、ものすごく怖がっているのが丸わかりだ。


 なんか、バンジージャンプに初挑戦する直前の、芸人さんみたい……。


 小浮気一族は倉庫管理が主な仕事なんだから、あんまり戦闘経験ってないのかな?


 それでいきなり、『噴火口に飛び込め』はハードル高いよなぁ。そりゃ怖がるのも無理ない。


「転落死しても構わんなら、自前で飛び込むがよい。我はおススメはせんがの」


 飄々と答えながら、絹糸が全身の毛をピリピリと逆立て始める。


 たちどころに周囲の気が凝縮して、白い霧のような霊気がもうもうと立ち込め、白猫は神々しい神獣の姿に変化した。


「さて、我の背に乗るがよい。とはいえ、さすがに全員は無理かのぅ?」


「詰めれば、四人は乗れるよね? お岩さんとセバスチャンさんと、マロさんと、それから……」


 ……あれ? どこ行ったのクレーターさん?


 すぐ横にいたはずのクレーターさんの姿が見えなくて、あたしはキョロキョロした。


「クレーターさん? クレー…… あ」


 あたしの視線の先には、顔面蒼白になって大口を開けたクレーターさん。


 橋の隅っこまで後退して、腰を抜かしたようにヘタリ込みながら、全身をカタカタ小刻みに震わせている。


 その極限まで見開かれた両目が凝視しているのは、変化した絹糸。


「な、な、な、なん? な……!?」


 息をするのも忘れたように固まって、驚きを隠そうともしていない。


 あーそっか。この人、経験値ゼロなんだっけ。


 もう見慣れたけど、あたしも初めて神獣姿の絹糸を見たときは、あまりの存在感に度胆を抜かされたもんな。


 こりゃさらにハードル上がっちゃったかな?