神様修行はじめます! 其の五

「手がかりどころか、味も素っ気もないのぅ。実に永久らしい部屋じゃな」


 周りを見回しながら、妙に感心した声で絹糸が言う。


「あちら側の部屋は、水園さんが使っていた私室のようですわ。女性用の衣装が置かれていましたから」


「ここは永久様の私室のようですね。とりたてて異常も、目ぼしい物もないようです」


 たいして大きくもない庵の探索は、あっという間に終了。


 つまり、いきなり手詰まりになってしまったわけだ。


「どうしよう。門川君、道すがらにパンくずでも置いてってくれてれば、追跡が楽なのに」


「アマンダったら、メーテルリンクじゃあるまいし」


「グリム兄弟でございます。ジュエル様」


「あら? ヘンゼルとグレーテルって、パンくずを利用した罠を青い鳥に仕掛けて、まんまと捕獲する物語じゃありませんこと?」


「違います」


「違いませんわよ。たしか、悪者を釜茹での刑に処して、青い鳥も、金銀財宝も手に入れて、濡れ手に粟の大もうけをするという……」


「という話ではございません。それは実にジュエル様好みにブレンドされたストーリー展開でございますが、まったく違います」


「それはともかく、これからどうしよっか? 宝物庫の方に行ってみる?」


「そうじゃのぅ。じゃが宝物庫はこことは違って警備が……うむ?」


「絹糸? どうかしたの?」


 なにかを見つけたらしい絹糸が、床の間に近づいて、床板に鼻先をくっつけている。


「絹糸、なにか不審物でも発見した?」


「見よ。これじゃ」


「いや、見ろったって、どれよ? なんも見えないよ」


「ようく見てみぃ。ほれ、これじゃよ」


 そう言われて、絹糸の鼻先のあたりを、よーく凝視したら……。


「……これ、水?」