神様修行はじめます! 其の五

 門川君は、水園さん以外の人は決して庵に近寄らせなかった。


 それを聞いたとき、正直言って嫌な想像しちゃって、すっごい胸がモヤモヤしたんだけれど……。


 ……でもこれ、なんか……違う……気がする?


 あたしは、ひっそりとした庵の佇まいを見ながら、不可解な感覚に囚われていた。


 なんか、そういう嫉妬を感じるようなこととは、ちょっと違う意味な気がする。


 この隠れ家のような建物の全体からは、そういう色恋っぽい空気がまったく感じられないんだ。


 逆に、まるで息を潜めるような、なにかがある。


 ふたりが背中を丸めて、ジーッとうずくまって、何かをやり過ごそうとしていたような。


 そんな、居たたまれない気配が残っている……


 ……ような、気がするだけなんですけどね。


 いや、あたしの勝手な感覚で言ってるだけだから、断言はできないけど。


 いかにも侘び寂びっぽい物寂しい雰囲気から、そう感じてるだけかもしれないし。


 否定したいあたしの心が、勝手にそう思い込もうとしてるだけかもしれないし。


「中に入るぞ」


 一カ所しかない出入り口から中に入ってみれば、そこは、襖と障子で細かく区切られた生活空間だった。


 まだ新鮮な香りが漂う緑色の畳敷の、必要最低限な調度品しか揃っていない和室が、いかにも門川君らしい。


 きちんと整理整頓された文机の上に、彼愛用の硯と筆が置かれていて、胸がギュッと切なくなった。


 文机の前に正座して、丹念に筆を走らせている彼の姿が目に浮かんで、鼻先がジンと熱くなる。


 持ち主のいないそれらが、ポツンと寂しそうで……。


 なんかさ、まるであたしみたいだよ。


 ほんと、何もかんも全部ほったらかしで、どこ行っちゃったんだよ門川君。


 ……バカ。