部屋に入った途端、ふたりは濃厚な口づけを交わした。


男の方はやや手荒で、女は受け止めるだけで精一杯といった様子。


それでも、女は喜びを露わにしていた。


どんなに荒っぽい扱いでも、女には快楽となるのか。


普通なら痛みを伴いそうな行為もすべて、喜悦となるようだった。


「長かった……。やっと、会えた……」


吐息と共に、発せられた言葉。


口づけから、さらなる行為に及ぼうとしていた男は、しかし興が冷めたとでもいうように、女を突き放した。


「ヘラルド」


女は懇願するように名を呼んだ。


しかし男は、隻眼のヘラルドは、表情一つ変えることなく、女の長い髪を掴み、床に引き倒した。


「誰が喋ってもいいと言った?シェイルナータ」


艶やかな髪をぐいっと引っ張った。


そう。


女はシェイルナータだった。


ヘラルドとの再会だけを夢見て、自身の若さと美貌を保ち続けてきたのだ。


そのために、神殿に異空間を造った。


以前、蘭とカイルに話して聞かせたことは偽り。


何百年もの間、嘘を嘘で塗り固めてきた存在。


それがシェイルナータだった。


「お前に会えて嬉しいのだ。ヘラルド」


「黙れ」


ヘラルドはシェイルナータの髪をさらに引くと、彼女に顔を近付けた。


シェイルナータの顔が痛みに歪むのを嬉しそうに眺めている。


「勘違いするな。あんたは利用価値がある。昔も今も、それだけの存在だ」


「それでも……側にいられるなら、いい……」


シェイルナータは苦しい息の中で、ようやく声を漏らした。


そんな彼女を、ヘラルドは髪を掴んだまま引きずり回した。


部屋の中をぐるぐる回り続ける。


ややして気が済んだのか、髪を掴んでいた手を離し、安楽椅子にどっかり腰を下ろして足を組むと、頭を押さえ、うずくまるシェイルナータを、冷ややかに見下ろした。