*   *   *




 合コンが始まって十分。

 希望は心の底から今日この場に来たことを後悔していた。


「希望ちゃん、すげーかわいいね。本当に彼氏いないの?」


 男性グループの中の一人が私に声をかけてきた。

 彼は明るく染められた長い前髪の隙間から、獲物を狩るような瞳をのぞかせている。


「はあ……いませんけど」


「じゃあさ、俺と抜け出さない?」


「いや、まだ始まったばかりだし……」


「えーいいじゃん。俺はもう希望ちゃん以外にアプローチする気はないからさ」


 背中に回された手に嫌悪感を抱きながら、私は廈織くんの方へ視線を向けた。

 彼は、じっとこちらを見つめていた。

 その瞳は私を非難するような、軽蔑するようなものではなく、憐れんでいるように見えた。

 途端に急に恥ずかしさが込み上げ、私は近づいてくる男の手を振り払った。


「やめてください」


 私の行動に男は不服そうな表情を浮かべる。

 次の瞬間、男の放った一言に私は頭の中が真っ白になった。


「は? 出会い求めて合コン参加したんじゃないの? 彼氏にフラれたんだっていうから、慰めてやろうかと思ったのに」


「――――え? なんで知って……」


「俺が希望ちゃんを狙ってるって言ったら、廈織が教えてくれた」


「……ありえない」


 私の心を支配していたのは「裏切られた」という感情だった。

 それは一方的な思い込みに過ぎないのだけど、誰にも口を開いていないと思っていた悠希が、幼なじみにさえ真実を語っていなかった彼が、廈織くんには私との別れを話していた。

 そんな事実がやけに悲しくなり、私は小さな声で呟いた。

 悔しさが込み上げ、涙で視界が霞む。

 やはり、今日ここへ来るべきではなかったのだ。

 気付いた時には、私は荷物をまとめて立ち上がっていた。

 突然の事態に友人たちは歌うのを止め、私を見つめる。


「希望……? どうしたの?」


 口を開けば泣いてしまいそうだった。