『●●ようちえん/チューリップぐみ/たかはし こはく』


 それは、幼い頃の私そのものだった。

 だとするならば、先ほど幼女が「おとうさん」と呼んだ人のは、一緒にボール遊びをしていた人物は、私が幼い頃に事故で死んだ「お父さん」であり、これは夢だということになる。

 私は、この懐かしい風景がこれから辿る結末を知っている。

 知っているのに何もしない。

 できない。

 太陽が沈むギリギリまでボール遊びに熱中していた幼い私は、疲労と視界の悪さから、返球されたボールを取り損ねてしまう。

 そうして弾けるようにボールを追いかけ、駆け出す幼女。

 後先の事など何も考えず、ただ真っ直ぐ、一心不乱に。

 幼女の背後にあった大通りまで転がるボールの先の信号が赤になっていることなど気が付きもせずに。

「あっ」と私が声を漏らすより早く、目の前を「おとうさん」が全力で走り抜けていく。

 自分の夢だからといって、自由に動けるわけではないらしく、私は瞬きをすることも許されず、これから起きる悲劇を見つめていた。

 ボールを追いかけ、赤信号の大通りに何の迷いもなく飛び出す幼女。

 スピードを一切緩めず迫る自動車。

 寸でのところで追いついたお父さんが幼女の腕を掴み、歩道に引き寄せる。

 反動で、自動車の前に飛び出すことになったお父さんは、そのまま車にはねられてしまった。