「なんだ?」
花音はボクの予想を遥かに超えた問いを、まるで夕飯の献立を訪ねるかのように何気なく聞いた。
「私とお兄ちゃんのお母さんって違うの?」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
「なんで……知って……」
「……やっぱり本当なんだ」
気が動転し、思わずこぼれてしまった言葉が彼女の疑問を確信へ変えてしまった。
ボクは状況の悲惨さに、ただただ青ざめる。
久藤家は現在、母、兄、妹の三人家族であり、母さんと父さんは三年前に離婚した。
その母さんとはすなわちボクの母さん、女優のミヒロであり、花音を生んだ母親ではない。
父さんはボクが生まれてまもなく水商売を営む女性と関係を持ち、一年後に花音が生まれた。
その後、花音の母親は娘を父に押し付けたまま行方をくらませた。
元来浮気癖のあった父さんにボクの母さん、ミヒロは離婚を決意。
その際、母さんはボクと花音の親権だけは頑固として父に渡そうとはしなかった。
結果として花音は血の繋がった家族を失うことになったのだが。
父さんがいなくても、ボクは幸せだった。
優しい母さんと妹がいてくれたなら、それ以上に幸せなことはなかったはずなのに。