春田希望は今回の旅行の一つの目的でもある、どうしても会いたかった一人の少女を見つめていた。

 少女の名前は久藤花音。

 私が現在、恋をしている彼の妹で、人気女優ミヒロの愛娘である。

 可憐な少女は、私を含めた未来の先輩たちに取り囲まれ、次々に質問を投げかけられていた。

 私は別荘の女子部屋で繰り広げられるその様を皆よりほんの少し離れた所から見ている。

 一番楽しそうに花音ちゃんへ絡んでいるのは七海ちゃん。


「花音ちゃんは好きな人とかいないの? こーんなに可愛いんだからそれはモテるでしょ」


「いえ、モテませんし、その……こんな性格なので友達もあまりいなくて」


 恥ずかしそうに首をすくめながら言葉を少しずつ小さくする花音ちゃん。

 花音ちゃんは昔の私に似ている。

 抵抗する術も上手な生き方も知らなくて、相手のペースに巻き込まれるだけの弱者だった頃の私に。

 だからなのかもしれない。

 彼女を見ていると、どうしようもなく苛立つ。


「そっか……でも、来年からは私たちがいるから少し安心してくれると嬉しいな。先輩とか後輩なんて難しいこと言わないでさ、友達になろうよ」


「あ、ありがとうございます。私、そんな風に言ってもらえたの初めてで……嬉しいです」


「で、好きな人はどうなの?」


 聞いたのは琥珀ちゃん。

 この話はまだ終わっていなかったらしい。