無理だとか、しょうがないとか、後づけられた理由だとか。

そんなにも簡単に"諦める"ことは、今のあたしにとって何よりも耐え難いことだった。


『今までの人生、棒にふることになるわよ』


頭の中で封じたはずの記憶がフラッシュバックする。

これは駄目、あれも駄目。型に押し込められて、それでも必死に弦を引いた。

あたしをどんどん蝕んでいった、心に生まれてしまった黒いわだかまり。


閉塞した伝統に押し込められて、いつまで経っても抜け出そうとはしていない。


─"ここ"は同じだ。

あたしが留まりきれなかった、あの場所と。



『あなたは逃げてる!』



「なんで…なんでそんな簡単に諦めるなんて言えるの!?」

「…桃」


葵の手が優しく肩に触れ、やっと自分が息を荒げていたことに気がつく。強張る奈々美と美登里の顔。

もう半ば、意地になっていた。


「で…でもぉ、うちそういうの厳しいじゃん?」

「先生と揉めると内部進学難しいし…ねぇ?」

あたしの顔色を伺うようにポツリ、小さく漏らしては二人は顔を見合わせる。

上がってしまった体熱を治めるように、ぎゅうっと握り締めた拳。

肩にあった長い指先が、その拳にふわりと触れた。


「それなら他でやればいいよ!」


葵は非の打ち所がない笑顔で微笑んだ。


「学校でしちゃいけないなら、他で。それなら文句言われないでしょ?」





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