櫻の園



家に戻ると、そこはひんやり薄暗かった。

お父さんもお母さんも、遅くなると言っていた。お姉ちゃんだって、今日は竹内さんとデートのはずだ。

朝から忙しそうに、机に散らばった結婚式場のパンフレットをかき集めていた。

まだ誰も帰っていないのだろうか…そう思ったがふと違和感を肌に感じる。

制服の白いリボンを外しながら、息を吸い込んだ。


…空気が、濁っている。


ひたひたと廊下の上を進み、ゆっくりとリビングの扉を引いて、あたしは思わず顔を歪めた。

「…お姉ちゃん」

「もーもぉー!!おっかえりぃ〜っ!!」

はぁ、とため息が漏れる。彼女の潤んだ目は焦点が合っておらず、顔はサルみたいに真っ赤だ。

「酒臭いし…もうお姉ちゃん飲みすぎだってば!強くないくせに」

「へっへ〜、たまには、ねっ!」

…なにが「ねっ!」だ。にへらっと頼りない笑みを見せる彼女からビールを取り上げた。

隣に座ってテレビをつける。薄暗い部屋に、その白い光はあまりにも人工的で、少し違和感を覚える。

手に握ったビールの缶は、もうとっくに温かった。


急に静かになった隣に、ふと目を向ける。

テレビに照らされた彼女の横顔はぼんやりと白く照らされて、輪郭はひどく鈍い。

頬に落ちた影がどこか寂しげなのは、きっと気のせいじゃなかった。


「お姉ちゃん…竹内さんと、なんかあったの?」
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