櫻の園



□□


進む足音は荒々しかった。

「なんであたしが…」

ブツブツと文句を垂れながら乱暴に廊下を歩く。

職員室に向かうにつれて、苛立ちがこみ上げてきた。だってあまりにも理不尽だ。


『だって桃しかいないでしょ』


彼女たちの言い分はこうだ。

台本を発見したのはあたし。佳代先生を担任に持つのはあたし。


…つまり、佳代先生に顧問を頼んでこいというのである。


「そもそもあたしやるとか言ってないのに…」


佳代先生のことだ。桜の園を演じたい、顧問をしてほしい、そう頼めば快く承諾してくれるだろう。

懐かしいなと思い出話でも聞かせてくれるかもしれない。

彼女のあの、上品な笑みが目に浮かぶようだった。ふんわりと、女性らしい優しい香りを思い出す。


しかし実際は、あたしの予想を裏返したものだった。



「…悪いけど、顧問は引き受けられないわ」


素っ気なくそう言った佳代先生は無表情で、さらにそれにはため息が加えられていた。

唖然としたあたしの目の前に、台本が突き返される。当然、引き受けてくれるものばかりと思っていたのに。

坂野佳代、印刷された名前にくしゃりとシワがよった。


「え…どうして、ですか?」

「ウチじゃ上演できないの。学校が許可しないわ」

「…できない?」

怪訝な顔で眉間にシワを寄せる。そんなあたしに一瞥をくれると、佳代先生はあたしの手に無理やり台本を握らせた。

「あなた…こんなものどこで見つけてきたの?」

「…え、それ、は…」

「あなたのお姉さん?」


.