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進む足音は荒々しかった。
「なんであたしが…」
ブツブツと文句を垂れながら乱暴に廊下を歩く。
職員室に向かうにつれて、苛立ちがこみ上げてきた。だってあまりにも理不尽だ。
『だって桃しかいないでしょ』
彼女たちの言い分はこうだ。
台本を発見したのはあたし。佳代先生を担任に持つのはあたし。
…つまり、佳代先生に顧問を頼んでこいというのである。
「そもそもあたしやるとか言ってないのに…」
佳代先生のことだ。桜の園を演じたい、顧問をしてほしい、そう頼めば快く承諾してくれるだろう。
懐かしいなと思い出話でも聞かせてくれるかもしれない。
彼女のあの、上品な笑みが目に浮かぶようだった。ふんわりと、女性らしい優しい香りを思い出す。
しかし実際は、あたしの予想を裏返したものだった。
「…悪いけど、顧問は引き受けられないわ」
素っ気なくそう言った佳代先生は無表情で、さらにそれにはため息が加えられていた。
唖然としたあたしの目の前に、台本が突き返される。当然、引き受けてくれるものばかりと思っていたのに。
坂野佳代、印刷された名前にくしゃりとシワがよった。
「え…どうして、ですか?」
「ウチじゃ上演できないの。学校が許可しないわ」
「…できない?」
怪訝な顔で眉間にシワを寄せる。そんなあたしに一瞥をくれると、佳代先生はあたしの手に無理やり台本を握らせた。
「あなた…こんなものどこで見つけてきたの?」
「…え、それ、は…」
「あなたのお姉さん?」
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