久しぶりに会った洲はまたさらに変わっていて、大人びているという表現よりもすっかり大人になったと言った方がふさわしかった。

再会場所はずいぶんと洒落たバーで、あたしたち2人にはあまりにも似合わないとお互いに笑ってしまった。


今までの出来事を話すと、いくら時間があっても足りない気がした。


洲はバンドの方もなかなか順調で、定期的に開かれるライブはいつもお客さんでいっぱいらしい。

メジャーの話もあるにはあったのだが、自分たちの好きな音楽をやりたいということでインディーズのままでいることを選んだそうだ。


大人になった洲。

きっと知らないうちに、少し変わったあたし。


でもあたしの好きな茶色い髪の色はそのままで、笑った顔もそのままで。

あたしもきっと、強がりな性格はそのままで。



握り合った手の暖かさも、おんなじだった。



"それから、桃にひとつだけ、お願いしたいことがあります。"



『三番乗り場に電車が参ります、白線より後ろに下がってお待ちください──』

駅の構内に、アナウンスが響く。ぎゅうぎゅうに詰められた人の列の中、黒いケースを胸の中心に抱えて列車の到着を待つ。


あたしは今、バイオリニストとして演奏会を開けるまでになっていた。


洲とは、半年前から同棲を始めた。お互い仕事上、どうしてもすれ違いの生活になってしまう。

それなら一緒に住もうと、切り出してくれた洲の言葉にあたしは大きく頷いた。


打ち合わせのスタジオに向かう電車の中は、今日も定員オーバーだ。人がぎっしりと詰め込まれた空間には、どう考えても酸素が足りない。

ガタンゴトンと繰り返す定期的な音に揺さぶられながら、葵の手紙を手の中にぎゅっと握った。




"結婚式の日、桃に、バイオリンの演奏をしてほしいんだ。"










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