櫻の園



──世界がこんなに眩しいのは、一体いつぶりなのだろう。


ほんの少し遠回りをして控え室へ向かう。

満ち足りた気持ちは、頭のてっぺんから足のつま先までゆったりと巡る。

目を閉じて、今までのことを反芻する。

どうしてだろう。今はみんなの笑った顔しか、思い浮かばないんだ。


確かにしていた緊張は、どこか心地良いものに変わっていた。


「わっ」


その時突然吹きつけた、強い風。

あたしの抱える箱からパァッと幾枚もの花びらが舞った。


ひらひらと身を翻しながら、飛んでいく春の色。

空の青も、木々の緑も塗り替えるように、それは鮮やかに世界を染める。

ずっと春は好きじゃなかった。周りのことが一新して、それに合わせるのが面倒だと思っていた。


でも今は違う。

全てが蘇るように芽吹く、命の季節。



「桃〜っ!!遅いぞー!!」


はっと顔を上げると、ずっと向こうにあたしの姿を見つけたらしい美登里が、大きな声を張り上げて手を振っているのが見えた。

みんながもう、準備を整えて控え室の外で待っている。

その中には、葵と赤星さんの姿もあった。


「ちょっと早めに式典終わったみたいー!!今から講堂に移動だよ!」


みんながあたしに、飛びっきりの笑顔を向ける。


あたしの居場所は、今、ここにある。


「ごめん、すぐ行くーっ!!」


大きく声を張り上げると、あたしもみんなに思いっきりの笑顔を返した。



過去は変えられない。変わる必要もないんだ。

今が最高だと、胸を張って言えるならきっと自分を好きになれる。


あたしは今を生きていく。


そして、未来を描いていく。



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