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本当に正しいか正しくないかなんて、どこにも基準なんてないのだ。きっと。
それでも自分の考えは、間違っていないと思った。
そう思わなきゃあたしの心は、折れるか破裂してしまいそうだった。
「…そこが片付いたら、もういいわ。今日は帰りなさい。処分については、私からおうちの方に連絡を入れさせてもらいます」
佳代先生はそう言うと、黒板に書いてあった配役を消していった。かすかに残る白さが、やりきれないあたしの気持ちを表しているようだ。
ダンボールから出し広げた衣装や小道具をもう一度元のようにダンボールに詰めなおす作業は、ただ苦痛でしかなかった。
あたしに背を向けたままの佳代先生を見つめる。彼女の背中からは、何も読み取れなかった。
『佳代先輩ね、劇だけはみんなでやらせてくださいって、何度も何度も頭下げて…』
お姉ちゃんのセリフが頭の中でぐるぐると回る。だったら佳代先生も、きっと同じようにダンボールに詰めていったはずだ。
同じようにひとつひとつ、同じように…やりきれない気持ちで。
「先生」
気がつくと、彼女の背中に呼び掛けていた。
「…これでいいと思ってるんですか」
「……」
「劇中のセリフの『ロシアには何のために生きてるのかわからないヤツばかりだ』って…あれって、先生のことみたい」
振り返った彼女の瞳が揺れる。黒目がちの瞳が、今日は深い青に見えた。
「なんでまた、"桜の園"なかったことにしようとするんですか!?」
「これでいいのよ」
「〜どうして!?」
「みんなのためなの」
佳代先生はすっぱりとそう言いきって、あたしの正面に体を向けた。
朝焼けの光が、教室全体を照らす。あたしたちの足元に、影が伸びる。
「…先生はずるい。また同じこと繰り返そうとしてる。11年前の先生の気持ち、あたしわかります。だから先生にも、今のあたしの気持ちがわかるでしょう!?」
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