「結城さん──、どうしてそれを…?」
「この学校はおかしいです」
ずっと俯いていた佳代先生が、隣で息をのむのがわかった。
声の端は、小さく震えていた。
話し始めると止まらなかった。次々と湧き出るみたいに、口から言葉が滑り落ちた。
「変だと思います。ずっと固定観念みたいなのに囚われて、"桜の園"なかったことにして、生徒の気持ちなんかまるっきり無視」
「結城さん、やめなさ──」
「伝統は守っても、生徒は守らないっていうんですか!?」
あたしの声が響いて、重い沈黙が訪れた。肌の表面にピリピリと鈍い痛みが走る。
「…あなたは肝心なことをわかっていないわ」
「……?」
あたしに今にも食ってかかりそうなほど鋭かった教頭先生の瞳は、もやがかかったように光を失う。その奥には、重い影が見えた気がした。
「この櫻華の伝統は、生徒によってつくられるものではない。伝統を守ることで、初めて櫻華の生徒になるのです。もし、あなたがまだどうしてもあの芝居をやりたいというのならおやりなさい。ですが──」
教頭先生の赤い唇が、もう一度強く結ばれる。
風が窓に体当たりして、鈍い音を立てて息絶えた。
「──あなたに賛同したせいで、生徒たちは附属短大へ進めなくなります。あなたが、彼女たちの進路を閉ざすのです」
目の前が暗くなる。頭の中が、ごっそりくり抜かれたように空っぽだった。
『全員退学処分って言われちゃった…』
…ああ、同じだ。十年前と、何も変わっていないのだ、ここは。
「即刻旧校舎を片付けなさい。授業には戻らなくてよろしい。」
教頭先生は立ち上がると、この話はこれで終わりだというようにあたしに背を向ける。頭の上から降ってきた声。
それは冷たい、宣告だった。
「…あなたには明日から、三日間の謹慎処分を与えます」
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