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室内はシンと静まりかえっていた。気温は昨日より高いくらいなのに、この部屋の空気だけは肌に刺さるようにとても冷えていた。
豪勢な黒い椅子だとか、飾られている絵だとか、全て立派なものなのに温度が感じられない。
朝から呼び出された教頭室。目の前に座る教頭先生は、真っ赤な口紅の引かれた唇を威嚇するようにひん曲げたまま、あたしの目をまっすぐに見ていた。
「…ある生徒の保護者から、大変残念な知らせを受けました。本校の生徒が仲間を募り、校外の不適切な場所で"桜の園"を上演しようとしているそうです」
本当に残念でならない、というように教頭先生は肩を落としてため息をつく。
あたしのすぐ隣に付き添っている佳代先生は、顔を上げないまま俯いていた。
「下校時の立ち寄りは、校則で禁止されています。…あなた、昨夜はどちらに?」
あたしを責め立てる教頭先生のはっきりした声は、どこか勝ち誇ったように聞こえる。
昨日の電話の内容は、だいたいながらも聞いていた。だから教頭先生の口から紡がれる文章は、あたしが予想した通りのものだった。
電話を受けたらしい、お姉ちゃんは酷く狼狽していた。
『桃がライブハウスに通ってる姿を見た人がいるらしいの…それで、桃が中心になって禁止されてる演劇を上演しようとしてるって…本当なの?桃?』
…でも、あたしがライブハウスに行っていただけで、どうして"桜の園"のことまでバレてしまったのだろう。
それだけが疑問として頭の中で渦巻いていた。
「結城さん?どちらに、と聞いているのだけれど?」
…だいたいわかってるくせに、どうしてわざわざ聞いてくるのだろう。
軽蔑の色を込めてきつく見つめ返すと、苛立ちも露わに目の前の顔がくしゃりと歪んだ。
「あの作品は、いかなる場所でも上演を禁じています!本校の生徒が演じることは断じて許しません!!即刻おやめなさい!!」
やっと本題を出してきたか、と心の中で息をつく。目をそらしては負けだと思った。だから、強く睨みつけたまま決して視線は外さなかった。
「…11年前、あれが学校の伝統を傷つけたからですか?」
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