櫻の園


背中に響いたあたしの名前。

ためらいがちに振り返ると、洲の真剣な瞳があたしを追っていた。


「…間違ったりさ、違うと思ったからって…俺、そこで終わりじゃねえと思う。何度もそっからやり直してさ、そしたらすっげーいいもん見つかるかもしんねーだろ?」


音楽と同じだ。何度でも気に入るまでやり直してみればいい。

だって違うメロディーが、あたしを待ってる。


「ちゃんと、話してみろよ。…友達なんだろ?」


洲の声が、優しく心に染み渡る。


…まだ、終わったわけじゃない。そもそも何も始まってなんかいない。


あたしが逃げててどうするんだ。みんなと向き合わなきゃ、いつまでたってもスタートなんか切れやしない。


話し合ってみよう。初めてできた仲間を、あたしは大切にしたい。


逃げないで、弱い自分と向き合いたい。


あたしは顔を上げると、思い切りうん、と頷いた。




辺りは薄闇で、遠くにはもう星の光が見えていた。

一番星。夕方、一番はじめに輝き出す星。

強く白い光は、真っ直ぐにあたしの元に届く。

それは先ほどの洲たちに、とても似ているなと思った。


…美登里と、話してみよう。

明日の学校まで待ってるなんて、遅すぎる。


携帯を握りしめて、電話帳を開く。


『沢 美登里』


美登里の名前を探し当てると、ゆっくりと息を整えて発信ボタンを押そうとした───



その時だった。



突然ブルブルと震え出す携帯。びっくりして取り落としそうになったのを、なんとかとどめる。

メールじゃない、電話の着信ランプの色。

慌てて通話ボタンを押し、耳元に携帯をくっつけた。


「はい、もしもし──」

「桃!?あんた今どこにいるのっ!?」


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