櫻の園


真っ直ぐに飛ぶリミさんの声。

頭の中を、くり抜いていくように貫通する。

その鋭い声に、洲たちそれぞれの楽器がおもしろいほどに絡みつき、その威力を増していた。


すごいと思った。

あたしの頭の中の言葉全部振り絞っても、すごいとしか言えなかった。


不安定な足場。何かに向かって一生懸命な洲が、こんなにも遠い。


「おっしゃ!明日の本番、これで行こう!!」


急遽変えたばかりとは思えない仕上がりで一曲を終えると、メンバーみんな満足げに額をぬぐう。

くったくなく、嬉しそうに笑う洲は、あたしが知っている彼とはまた少し違う気がした。


洲には洲の、また別の世界があるんだ。

あたしにも、違う世界があるように。


自分が恥ずかしくなった。こんなにも真っ直ぐな洲を目の当たりにしているのに、あたしはその世界から、逃げてきたばかりなのだから。


「桃!!」

座り込んでいるあたしの元へ、満面の笑顔で駆けてきた洲。



「すげーだろ、リミさんの歌!!」

「うん…びっくりしちゃった」

「俺、リミさんの歌聴いた時、ぜってーこの人と組みたいって思ったんだ。俺たちの幸運のディーバだよ」


キラキラと話し続ける洲が眩しくて、軽くめまいがした。

あたしがここにいるのは、あまりに場違いな気がして。


「まだまだリハーサルこれからだから…って、…桃?」

「…ごめん…、今日はもう帰るね」


驚いたように目を丸くする洲。

なんだか後ろめたい気持ちが込み上げる。


「…なんか、自分が恥ずかしくなっちゃった」

「………」

「今は、真っ直ぐな洲を見ているのが辛いの」


あたしも、頑張らなくちゃ、とても洲たちに顔向けできない。

下手くそな笑みを最後に浮かべると、洲に背中を向けた。


「桃…っ!!」

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