櫻の園



スタジオ内は思ったより綺麗だった。外から見るとオンボロのアパートみたいに見えるのに。


黙ったままの洲に引っ張られ、どんどん上の階へ上がる。

やっと立ち止まった扉の隙間からは、かすかにギターやらベースやらの音が漏れていた。


「洲おっせーよ!!何時集合だと思って……ってあれ?」


スタジオのドアを開くなり、低い罵声が飛んだ。
その声の持ち主は、あたしに気づくと大きく目を見開いた。


「おいおい洲〜っ、誰だよその子!?」

「その制服、櫻華じゃね!?すっげ、お嬢じゃん!!」

好奇心やら期待やらを含む彼らの瞳に思わず縮こまると、隣にいた洲があたしの肩をポンと叩いた。


「結城桃。俺の幼馴染み。ちょっと見学させてやってていいかな?」


へぇ〜、とまじまじ顔を見つめられ、まさに穴があったら入りたい思いだった。さっき泣いたから酷い顔かもしれないし。

…それにあたしは本来、人見知りなのだ。


洲のバンド仲間はみんな、それぞれに整った顔立ちをしていた。明るい髪色の中で、洲の茶色はずいぶんと暗く見える。


「もーアンタたち、彼女怖がってんでしょ!!やっと全員揃ったんだから始めるよっ!!」

飛んできた高い声。全員男の人ばかりなのかと思いきや、その時やっと一人だけ女の人がいるのに気がついた。

スタジオの中心で呆れたように文句を言いながら、マイク片手に楽譜らしきものをヒラヒラさせている。


振り返った彼女は、驚くほどに美人だった。


こっちに近付いてくる彼女。くりっとした大きな瞳があたしを捉える。

あたしに向けられた、人懐こい笑顔。


「はじめまして桃ちゃん。あたし、このバンドのボーカルやってるリミって言います。ゆっくりしてってね」


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