その時。

……え?

数回瞬きした後、私はグッと眼を細めた。

誰かいる……?誰?

見上げていた月から眼をそらして下を向いた時、門扉のすぐ隣の塀に身を預けた誰かが見えたの。

慌てて視線を元に戻すと、瞬間的にヒヤリとした。

眼の錯覚ではなく本当に誰かがそこに立っていたから。

門柱のライトに浮かび上がった人物は男性だったけれど、庭を挟んだ私の部屋のバルコニーからは横顔が僅かに見えるだけで、誰だか特定はできなかった。

誰?誰か確かめたい。

けれどその男性は、すぐに南へと歩き出して闇へと消えてしまった。

滑らかに、融けるように。

誰なんだろう。

私を見た気がしたけど、気のせいかもしれない。

そもそも駅に続く通りから一筋中に入った私の家の前の道は、夜中でも人が通る。

もういいや。考えても仕方がない。

私はバルコニーから部屋へ入ると、そのまま足を止めずにバスルームへと向かった。