急に聞こえた声に驚いて顔をあげると、バルコニーにマリウスが立っていた。

「マリウス……!」

翠狼の家には結界が張られている筈なのに……。

マリウスが、少しだけ開いていたガラス戸をそっと引きながらフワリと笑った。

時間はあと少しで正午になるところで、高くあがった太陽の柔らかい光がマリウスを優しく照らしていた。

その姿はまるで神話の神のように神秘的で綺麗だったから、私はまるで怖くなかった。

思わず見つめてしまう私をマリウスもまた見つめる。

「偉大なるヴァンパイアには……結界の力が少し弱いみたいだね」

……そうなんだ……。さすが偉大なるヴァンパイア……。

冗談めかしたマリウスの口調に私が素直に納得していると、彼は優雅な足取りで近付いてきて静かな声で言った。