ああ、と思った。

クリスティーヌは、マリウスを裏切ったんじゃなかったんだ。

限り無く溢れる愛で、彼女はマリウスを救おうとしていたのだ。

そう、命懸けで。

きっとこの『メシアのダガー』は、誰にも言わず、ひっそりと願いを込めなければならないのを、クリスティーヌだけが知っていたのだと私は思った。

「クリスティーヌ……クリスティーヌ……すまない、すまない……!」

血を吐くようなマリウスの悲しみに震える声を聞きながら、私は思った。

数知れない裏切りの中に身を置き、信じる気持ちが揺らいだマリウスを、私には責めるなんて出来ない。

人間に恋をした『偉大なるヴァンパイア』は、深すぎた愛が故に激情が押さえられなかったのだ。

祈らずにはいられなかった。

クリスティーヌの心の平穏を。

それから、いつかマリウスの悲しみが少しでも癒えるようにと。

ああ、もうダメだ……。

私……死ぬのかな……。

「藍、藍!しっかりしろ!」

物凄い早さで全身が冷たくなっていく。

もう、ダメ。

深くて光の届かない冷たい深海に沈んでいくような感覚に耐えられず、私は意識を手放した。