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眼を閉じてもビジョンは見える。

クリスティーヌが、満月の光を浴びながらひとりバルコニーに佇んでいる。

手に、短剣を持って。

それは紛れもなくこの銀の短剣で、彼女はそれを持った右手を天高く掲げた。

満月から放たれた白金の光が短剣に降り注ぎ、彼女は囁くように祈っている。

なに……なんて言ってるの……?

意識を集中させて聞き入ると、彼女の切ない声が耳に届く。

「メシアのダガー……私は誰に漏らすことなく、マリウスにすら秘密にした上で願います。愛しい私の恋人を……私のマリウスを、どうか人間にしてください。彼は『偉大なるヴァンパイア』でなどいたくはないのです。私は彼の苦しみを救ってあげたい。……私とマリウスは次の満月にあなたを胸に受けましょう。この愛の証明を受け取って頂けたならどうぞメシアのダガーよ、彼を人間にしてください」