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「お願いがあるんです」

開かれたドアを一歩入った途端にそう言った私に、マリウスはクスッと笑った。

「まずは座らない?」

「あ……はい……」

「おいで」

「……」

マリウスが動く度に、たっぷりと作られたマントのヒダが優雅に揺れる。

広い廊下はそう長くなかったけど、私は歩いている間、マリウスの均整のとれた後ろ姿を見つめた。

細身の長身、暗い廊下でも分かるプラチナ色の髪。

銀色の長靴には同色の拍車が付いていて、何だか私は中世のヨーロッパに迷い込んでしまったような錯覚を覚えた。

やがてステンドクラスを嵌め込んだ扉が見えてくると、彼はそれを開けて私を振り返った。