錆び付いてよく見えないけど、月の光と一つだけの門灯で照らされた《fermer》の文字がかすかに見えた。

どうしよう……。

辺りをぐるりと見回したものの名案が思い浮かばず、私はやむ無く木製の大きなドアに備え付けられたドアベルを控え目に鳴らした。

……出るわけないよね。

その時、ガチャリと鍵の開く重い音がした。

「きゃあっ」

驚きのあまりビクッと全身が震えて、私は思わず叫んだ。

その直後、両開きのドアがゆっくりと左右に開きはじめる。

息を飲んで後ろに下がった私の耳に、柔らかい声が聞こえた。

「……いらっしゃい」

マリウスだと、私には分かった。