「藍?」

僅かに両目を細めて、眩しそうに見つめるのは翠狼の癖だ。

……抱き締めたい。

抱き締めて好きって言いたい。

でもダメ。

私と翠狼じゃ釣り合わないもの。

やっぱり翠狼には、カグヤさんみたいな大人で魅力的な人のがお似合いだ。

それに……それに、もしも私がこの世からいなくなってしまうのなら、尚更伝えない方がいい。

「どうかしたのか」

「ううん。なんでもない」

私は少しだけ笑うと、コーヒーカップを持って立ちあがった。

「じゃあ私、瀬里の家に行く用意するね。朝から行くから送らなくていいよ。着いたら連絡するね」

「分かった」

覚えておくよ。

何気なく頷くあなたの顔や仕草、声もすべて。

時計を見ると午後十時を少し回ったところだった。