翠狼にゆっくりと下ろされると、私は彼に一歩近づいてその顔を見上げた。

「翠狼、ありがとう」

もう……律はいない。

私は瀬里の言葉を思い返した。

起きてしまったことはもう変えられない。

この短期間の間に私の周りで目まぐるしく起こった出来事は、無かったことには出来ないのだ。

ヴァンパイアや人狼という存在を、目の当たりにした事実も。

まだまだ苦しいけれど、私は前を向かなきゃならない。

前に進まなければならないのだ。

翠狼が私を見下ろして少しだけ笑った。

「さあ、帰るぞ」

「うん」

私は翠狼の背中を見つめて歩く速度をあげた。