そう言って少し下がった瀬里を見て、雪野一臣は近くにあった小さなメモ帳を引き寄せ、そこに何かを書いた。


《翠狼》


翡翠の翠に、狼。

メモに書かれたその二文字に、鼓動が跳ねる。

やはりそうだったのだ。

あの漆黒の被毛。

息を飲むほどに鮮やかで深い、翡翠を思わせる真緑の瞳。

「あなたは……!」

信じられないほど心臓が脈打ち、息が苦しい。

そんな私の前で、雪野一臣が口を開いた。

「さっきの狼は、俺だ」

瀬里が心配そうに私を見つめた。

「狼……」

雪野一臣は、真っ直ぐに私を見たまま続けた。