GREATEST JADE~翡翠の瞳に守られて~

雪野一臣が見上げた建物は、古びたビルだった。

どうやって建てたのか、疑問に思うほど幅の狭いそのビルに雪野一臣は足を踏み入れた。

怪しく点滅する蛍光灯と、錆びた階段。

雪野一臣は私を肩越しに振り返り、小さな声で言った。

「ゆっくり上れ。出来るだけ足音をたてるな」

私は無言で頷くと雪野一臣の後について階段を上った。

多分、三階だと思う。

雪野一臣が静かに振り返って私を見た。

どうやら本当に着いたらしい。

階段から離れ狭い廊下に差し掛かると、ドアのない部屋から声だけが聞こえた。

誰かいる。

私が雪野一臣を見上げると、彼はかすかに頷いた。

「清雪様、とうとうマリウスが来日しました」

……律だ。律の声だ。