あーあ、と思ったのだが、航は父の向かいに腰を下ろし、
「ありがとうございます」
と言って、その杯を受けている。

 そのまま二人で呑み始めた。

 途中、まだ起きていた翔子が後ろから航に抱きついてきたりして、

 いやーっ、私もやってみたいーっ!
と遥は大人気なく心の中で絶叫していたが、なんとか叔母らしく、微笑みを保っていた。

 一方、姉はテーブルの方で呑みながら、携帯で夫をタクシーのように呼んでいる。

 ……優雅な主婦だな。

 いや、普段は大変なのだろうから、たまの息抜きなのだろうが、と思って見ていると、母親が席を外したあとで、父親がいきなり航に向かって言い出した。

「南条のとこの娘がね」

 お父さん、いきなり、言われても、課長は、南条って誰っ? って思ってるよ、と思う。

 南条は父の同期だ。
 今日も呑みに来ていたらしい。

「来月結婚するらしいんだけど。
 できちゃった結婚らしいんだよ。

 まあ、結婚はおめでたいんだけど。
 私は、結婚前にそういうのはどうかと思うんだよね」