「ただいまー」

 遥が航とともに家に帰ると、陽気な父親の声がリビングからもれ聞こえていた。

 どうしたんだろう。
 珍しい。

 いつも物静かな父親のテンションが少し高いように感じた。

 すると、玄関が開いた音を聞きつけ、
「あら、誰か忘れ物ー?」
と言いながら、母親が出てきた。

 なにやら家中が酒臭いんだが、と思ったら、どうやら父親の会社の人たちが来て、うちで呑んでいたようだった。

「航さん、遥を送ってくれたのね。
 ありがとう。

 ちょうどいいわ、上がって上がって」
と母親に強引に航も上らされる。

 リビングのコタツの上には、料理が少し残っており、父親はそれをつまみながら、まだ酒を呑んでいた。

 航を見ると、嬉しそうに手招きをし、
「航くん、まあ、呑みなさい」
と言う。

 やばい。
 これは帰れなくなるのでは、と不安を覚え、
「お父さん、課長は明日も仕事が」
と言いかけたのだが、

「私だって、仕事がある。
 まあ、呑みなさい」
と言われてしまった。