好きになれとは言ってない

「あ、うちの会社の小宮さんです。
 さっき、階段から落ちかけたところを助けてくださって」
と紹介すると、

「落ちかけたっていうか、ほぼ、落ちてたよね」
と小宮は言い直してくる。

 一緒にカウンターに座りながら、
「うわー。
 鍛えてない大魔王様だ」
と小宮が真尋を見上げて感心したように言うと、ようやくそこで真尋は本当に笑った。

「言うほど似てないと思うけど。
 まあ、顔が似てても、筋肉フェチの遥ちゃんには、あんまり意味ないみたいなんだけど」

 そんな真尋の戯れ言を小宮が本気にし、
「……やっぱり、そうなんだ」
とこちらを見てくるので、

「違いますっ。
 違いますよっ」
と慌てて手を振る。

「ところで、なんにする?」
と真尋に訊かれた小宮は、

「あ、じゃあ、ニンジン入りの焼きそばで」
と言って、

「いや、普通に入ってるから、ニンジン」
と言われていた。