そして、昇降口へ向かって一直線に進めるはずの足を止めて振り返る。
あれ、茜いない。
「茜」
呼んでみるけれど、茜の姿はない。
……しまった、冷たくしすぎたか。
独りでにサボると決めたくせに、茜がいないと妙に不安を覚えた。
ともだち歴が長いだけある。
それほどに茜が隣にいることは安心感があるということだ。
なにが「茜の好きにして」だ。
格好つけずに大人しく、ついてきてほしいと言えばよかった。
「あーこういうの女子っぽくてやだ」
いや、女子なのに違いはないのだけど。
女子特有な感じがしてなんだかちょっと鼻に付くというか。
自分のことのくせに鼻に付くってのは、おかしいかもしれないけれど。
とにかく困った。
ここはサボってもいいものなのか。
ここにきてまさかチキンで真面目ちゃんな自分がしゃしゃり出るなんて。
「どうしたの?」
うじうじと下駄箱の前に座り込むわたしに向けられたであろう、聞こえてきた無機質な声が妙に耳についた。
反射的にその声の方は顔を向けると、そこには前髪の長い男子生徒がいた。
その髪から覗く瞳に、ぞくりと背中が震えた、気がした。


